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2017年センター試験数2B第5問は指導要領の範囲外

はじめに

2017年センター試験数学2Bの選択問題第5問「確率・統計」は難化し,この分野の参考書を書いたオレは「やさしいと言っていたのに難しいじゃねぇか,バカ野郎」,「やさしいと言っていたのにうそつき」など罵声を浴びた。その点については申し訳ない。

しかし,これだけは言っておきたい。あの問題が扱った「一般的な連続型確率変数の平均」は指導要領の範囲外だ。センター試験で出してはいけない問題なのだ。(指導要領を読めば連続型確率変数で平均を扱うのは正規分布だけであり,一般的な連続型確率変数では平均は扱わないと分かる。

オレが書かなくてもそのうち誰かが書くだろうと思っていたがその気配がないし,大学入試センターは総括で「分量は適切で、標準的な問題である」とか書くし(高校教員の評価(下線部)。ちなみに日本数学教育学会の見解問題作成部会の見解もある)。

ひどい話だ。センター試験が指導要領の範囲外を出したんだぜ。そんなことを想定して参考書は書けないよ。無理無理。

指導要領の範囲外であることを出題者も承知している証拠は,わざわざ「一般的な連続型確率変数の平均」の定義を問題文に書いていることだ。これを勉強していない受験生がいるのが当たり前(扱っていない教科書がある!)だから定義を書いたんだよ。

何故,指導要領の範囲外の内容を出題したかと言えば,

  1. 「一般的な連続型確率変数」を出題したい。
  2. しかしそれでは「確率変数がある範囲にある確率」を一つ聞いてお終いになってしまい,点数が少なすぎる(実際その部分は2点しかない)。
  3. だから指導要領の範囲外の内容を追加して(その部分が6点)点数を補った

と言うことだ。センター試験が指導要領の範囲外を扱うとはメチャクチャだ。

後日別の記事で同年のセンター試験追試の「確率・統計」を解説するが,そちらの方はごくごく普通の教育的な問題だから,もしかしたら本試と追試(普通は本試で使えないクソ問題が使われます)で問題を入れ替えたのかも知れない。たぶん,入れ替えたんだと思うよ。

この記事では,この問題がどのようなものなのかを解説し,指導要領の範囲外であることを解説する。

2017年センター試験数学2B第5問「確率・統計」の問題と解説

以下の問題を解答するにあたっては,必要に応じて29ページの正規分布表を用いてもよい。

「29ページの正規分布表」は後で見せます。(1)には使いません。以下,黄色い背景の部分が解答・解説です。

(1)二項分布の基本/配点6点

(1) 1回の試行において,事象\(A\)の起こる確率が\(p\),起こらない確率が\(1-p\)であるとする。
この試行を\(n\)回繰り返すとき,事象\(A\)の起こる回数を\(W\)とする。
確率変数\(W\)の平均(期待値)\(m\)が\(\displaystyle \frac{1216}{27}\),標準偏差\(\sigma\)が\(\displaystyle \frac{152}{27}\)であるとき,\(n=[アイウ]\),\(\displaystyle p=\frac{[エ]}{[オカ]}\)である。

二項分布の公式を用いるだけの問題だ。数値が面倒くさく見えるが,うまい数値を選んである。

二項分布の公式から
\[
m=np =\frac{1216}{27}=\frac{8\cdot 8\cdot 19}{27} \qquad \cdots (☆)
\]
\[
\sigma =\sqrt{np(1-p)}=\frac{152}{27}=\frac{8\cdot 19}{27} \qquad \cdots (☆☆)
\]

(☆)を(☆☆)に代入して整理すれば
\[
1-p=\frac{19}{27} \quad よって,p=\frac{[8]}{[27]}
\]

(☆)に代入して
\[
n=[152]
\]

これで各3点。いきなり二項分布から始まるのは意外だったが,二項分布の公式に当てはめるだけで簡単。

第3問「数列」なら「何だこの設定?」となるし、第4問「ベクトル」なら「正六角形の図を描くのかよ」となるのに比べたらこっちは「二項分布の平均と標準偏差ですね。公式がありますね」とスラスラっと式を書くだけだ。

(2)二項分布を正規分布で近似する/配点6点

(2) (1)の反復試行において,\(W\)が38以上となる確率の近似値を求めよう。
いま
\[
P(W \geq 38) =P\left(\frac{W-m}{\sigma}\geq -[キ].[クケ]\right)
\]
と変形できる。ここで,\(\displaystyle Z=\frac{W-m}{\sigma}\)とおき,\(W\)の分布を正規分布で近似すると,正規分布表から確率の近似値は次のように求められる。
\[
P\left(Z\geq -[キ].[クケ]\right)=0.[コサ]
\]

まずは,\(W\geq 38\)という不等式を,与えられている\(\displaystyle m=\frac{1216}{27}\)と\(\displaystyle \sigma =\frac{152}{27}\)
を用いて変形せよというのだ。やるだけだ。\(W \geq 38\)より
\[
\frac{W-m}{\sigma}\geq \frac{38-m}{\sigma}
\]
\[
=\frac{38-\frac{8\cdot 8\cdot 19}{27}}{\frac{8\cdot 19}{27}}
\]
\[
=\frac{2- \frac{64}{27}}{\frac{8}{27}} \quad (19で約分した)
\]
\[
=-\frac54 =-[1].[25]
\]

問題文の「\(\displaystyle Z=\frac{W-m}{\sigma}\)とおき・・・」という部分は,確率\(P(W\geq 38)\)を正規分布表から求める方法を教えてくれている。
それが分からない受験生であっても\(P(Z\geq -1.25)\)を聞かれているのだから,正規分布表から読み取るだろう。

びっくりするぐらい親切だ。次の(3)で指導要領の範囲外を聞くから平均点がひどくならないようにとの配慮だろう。(配慮するところを間違っているんじゃないかな。)

\[
P(Z\geq -1.25)
\]
\[
= \underbrace{P(-1.25 \leq Z\leq 0)}_{A とし,}+\underbrace{P(Z\geq 0)}_{Bとする}
\]
\[
=\underbrace{P(0\leq Z \leq 1.25)}_{これがA} + \underbrace{0.5}_{これがB}
\]

ここまでの変形は正規分布の基本的な計算法だ。そして,「p.29の正規分布表」から次の図のようにして
\[
P(0\leq Z\leq 1.25)=0.3944
\]
と分かる。

したがって
\[
P(Z\geq -1.25)=0.3944 +0.5 =0.[89]
\]

2016年までと出題の仕方がずいぶん違うが,ただ単に公式を当てはめる問題ばかりだ。それもどの公式を使うかと迷うことがない。(「確率・統計」とはそういうもんだけどね)

\(P(Z\geq -1.25)\)を求める部分についてはこれが「二項分布の確率の近似値を正規分布を利用して求める」だと理解していなくても構わない。
「聞かれたから答える」だけなのだ。数学が苦手で「確率・統計」を選択した受験生には有り難いよな。

ここまで次々に公式に当てはめるだけで12点になるが,それでも2016年よりは難しくなっている。数列やベクトルでは「単に公式を当てはめるだけで12点」はあり得ない(色々考える部分があるはず)から,「確率・統計」が特殊な事がよく分かる。

(3)連続型確率変数の問題/配点8点

(3) 連続型確率変数\(X\)のとり得る値\(x\)の範囲が\(s \leq x \leq t\)で,確率密度関数が\(f(x)\)のとき,
\(X\)の平均\(E(X)\)は次の式で与えられる。
\[
E(X)= \int_s^t xf(x)\,dx
\]

ここでびっくりして手が止まった受験生が多いようだ。
「連続型確率変数」とか「確率密度関数」とか慣れていない用語が続出してパニックになったのかも知れない。それも当然で,一般的な連続型確率変数は指導要領には「確率を積分で求める」だけを扱うとしていて,「一般的な連続型確率変数の平均」というのは指導要領には記載がない

つまり,本問にある
\[
E(X)= \int_s^t xf(x)\,dx
\]
は明らかに指導要領の範囲外だ。

実際,東京書籍や実教出版の中位レベル向けの教科書では本文でも発展でも記載がない

教科書に無いことをセンター試験でいきなり見せられたらパニックになって当然だ。大学入試センターはムチャクチャするなよ。

ただし,落ち着いてこの後の設問に取り組めば,「確率密度関数」を知らなくても被害は2点のみだ。20点満点のうちの18点は取れる。

\(a\)を正の実数とする。連続型確率密度変数\(X\)のとり得る値\(x\)の範囲が\(-a\leq x \leq 2a\)で,確率密度関数が
\[
f(x)=\begin{cases}
&\frac{2}{3a^2}(x+a) & (-a \leq x \leq 0 のとき)\\
&\frac{1}{3a^2}(2a-x) & (0 \leq x \leq 2a のとき)
\end{cases}
\]
であるとする。このとき,\(\displaystyle a \leq X \leq \frac3 2 a\)となる確率は\(\displaystyle \frac{[シ]}{[ス]}\)である。

「連続型確率変数\(X\)の確率密度関数が\(f(x)\)である」とは,\(\alpha \leq X \leq \beta\)となる確率が
\[
P(\alpha \leq X \leq \beta)=\int_{\alpha}^{\beta}f(x)\, dx
\]
と積分を用いて定まる事を意味する。(詳しくは本サイトのこちらを見て欲しい。)

したがって,本問では次のようになる。
\[
P\left(a \leq X \leq \frac3 2 a\right)
\]
\[
=\int_{a}^{\frac32 a}f(x)\,dx
\]
\[
=\int_{a}^{\frac32 a}\frac1{3a^2}(2a-x)\,dx
\]
\[
=\left[\frac{-1}{3a^2}\cdot\frac12 (x-2a)^2\right]_{a}^{\frac32 a}
\]
\[
=\frac{-1}{3a^2}\cdot\frac12\left(\frac{a^2}4 – a^2\right)
\]
\[
=\frac{[1]}{[8]}
\]

あるいは,この定積分は次の図の斜線部の台形の面積を求めていると言う事だから次のように求めてもよい。

\[
P\left(a \leq X \leq \frac3 2 a\right)
\]
\[
=\frac12\cdot \frac12a \left(\frac1{3a}+ \frac{1}{6a}\right)
\]
\[
=\frac{[1]}{[8]}
\]

確かにこの話はオレの問題集では扱っていないので,オレの問題集を勉強しただけではこの問題は解けない。

その点については謝罪する。

しかし,この設問は2点だ。つまり,オレの問題集を使って20点満点を狙ったのが18点しか取れないと言う事だ。これぐらいは仕方ないと思ってくれよ。

ベクトルや数列が苦手で「確率・統計」を選択して18点取れれば得点率9割なんだから十分だろ。ベクトルや数列で18点取るのはかなり大変だぞ。

何故オレが一般の確率密度関数を問題集で扱わなかったかと言うと,指導要領の範囲を守っていたら(普通は当たり前)このテーマはこの設問のように確率を一つ聞くだけでそれ以上のことを聞けないからなんだよ。

積分して確率を求める設問をいくつも並べたら,積分の問題になってしまって,統計の問題とは言えなくなってしまう。

だから,センター試験では一般の確率密度関数を扱う問題は出せないと判断して,問題集で扱うのを止めたのだ。扱えば少なくとも20ページは必要だし,積分のテクニック(ブンブンとか)まで解説したらとんでもないページ数になる。指導要領の範囲内での出題を考えたらセンター対策の参考書で扱わないのは当然の判断だったと思っている。センター試験対策に確率・統計を勉強するのは切羽詰まった状況が多いだろうから不要な内容に時間をかけさせないのは適切な配慮だ。

2017年センター試験実施前の段階で「一般の確率密度関数を扱っていない」との批判があったが,どういう出題があり得るかを考えない底の浅い意見だと思う。

そんなオレの予想を常識外れの荒技「指導要領の範囲を守らない」で覆してくれたのが次の設問だ。

また,\(X\)の平均は\(\displaystyle \frac{[セ]}{[ソ]}\)である。さらに\(Y=2X+7\)とおくと,
\(Y\)の平均は\(\displaystyle \frac{[タチ]}{[ツ]}+[テ]\)である。

一般の連続型確率変数\(X\)の平均は指導要領の範囲外だ。連続型確率変数の最も重要で典型的な「正規分布に従うもの」についてのみ平均を扱うと言うのが指導要領に書いてある事だ

だから「一般の連続型確率変数\(X\)の平均」を扱っていない教科書は色々ある(東京書籍や実教出版の中位レベルの教科書など)。それなのにセンター試験がこの内容を出題したのは,一般の連続型確率変数を出題しても,確率を一つ求めさせたらそれで問題が終わってしまって続きの問題が作れないからだ。

指導要領の範囲外だと言う事を出題者が自覚しているから,(3)の問題文の冒頭に連続型確率変数の平均の定義を書いたのだ。

試験時間が比較的長い国公立の2次試験でさえ「指導要領の範囲外の事を定義を書いて出題」などと言う事は絶対しない。
高校で学んだ事を理解しているか試すという入試のあるべき姿に反するからだ。

しかし,せいぜい十分程度で解くセンター試験の問題で「指導要領の範囲外の事を定義を書いて出題」はメチャクチャだと思う。

とは言え,出題されてしまった以上は受験生は解くべきだ。初めて見た事と言っても定義が書いてあるのだ。それを使うだけだ。

この場合は次のようになる。
\[
E(x)=\int_{-a}^{2a}xf(x)\,dx
\]
\[
=\int_{-a}^0 \frac2{3a^2}x(x+a)\,dx
\]
\[
\quad +\int_0^{2a}\frac1{3a^2}x(2a-x)\,dx
\]
\[
\left(\int_{\alpha}^{\beta}(x-\alpha)(x-\beta)\,dx = -\frac16 (\beta-\alpha)^3 を用いて \right)
\]
\[
=\frac2{3a^2}\cdot \frac{-1}6 a^3 +\frac1{3a^2}\cdot \frac16 (2a)^3
\]
\[
=\frac{[a]}{[3]}
\]

\(\displaystyle \frac16\)公式を使う簡単な積分計算だ。これで3点。

あるいは,\(E(X)\)とは

「確率密度関数\(f(x)\)のグラフと\(x\)軸で囲まれた図形の重心の\(x\)座標に等しい」

という性質を知っていれば,次の図の斜線部の三角形の重心の\(x\)座標を求めるだけだ。

三角形の3頂点の\(x\)座標は\(-a\),0,\(2a\)であるから,重心の\(x\)座標は
\[
E(x)=\frac{-a +0 +2a}3=\frac{[a]}{[3]}
\]
と一瞬で終わる。

指導要領を無視してまで\(E(X)\)を聞いたのは,次の
\[
E(Y)=E(2X+7)
\]
を聞きたいからだ。統計なのだから出題者がこれを聞きたいのはわかる。そのために指導要領の範囲を無視して「一般の連続型確率変数の平均」を聞いたのだ。

平均の公式
\[
E(aX+b)=a E(X)+b \quad (aとbは定数)
\]
を用いて(この公式は指導要領の範囲)
\[
E(Y)=E(2X+7)
\]
\[
=2E(X)+7
\]
\[
=\frac{[2a]}{[3]}+[7]
\]

これで3点。以上だ。

終わりに

以上のように,2017年センター試験数2Bの確率・統計は指導要領の範囲外を聞くと言うとんでもないものだったが,決して難しくないことが分かる。せいぜい5分もあれば解き終わる。どの公式を当てはめるか迷うところがないからだ。

指導要領の範囲外の\(E(X)\)も、冷静に定義を読み\(\displaystyle \frac16\)公式を当てはめるだけだ。\(\displaystyle \frac16\)公式に気づかなくても積分区間の端が0だから素朴に積分計算しても大したことはない。

統計とは「どういうデータを集めるか、どうやって集めるか」が難しいのだが、高校の「確率・統計」は集めた後のデータの基本的な扱い方を学ぶ単元だから、本質的に易しい。

ベクトルや数列に不安があって数Bの確率・統計を選択しようとする受験生は,オレの参考書補充プリントで勉強した上で,マーク式総合問題集数学2Bで練習してくれれば高得点が取れる。ベクトルや数列よりずっとやりやすいのは確実だ。ベクトルや数列を習得するために必要な時間より遥かに短い時間で「確率・統計」は身につく。それは事実だ。(数Aの「確率」とは別物。向こうは大変だ。)

「確率・統計」を丁寧に説明する意欲が極めて少ない参考書や、丁寧に説明するためのページ数が極めて少ない参考書が並んでいる中で、オレの参考書はまともな方だと思うよ。(^o^)

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  1. 先生の本で出てくる公式は丸暗記ではなく証明まで覚えている必要があると思いますか?

    • こんにちは。

      統計の公式は数は少ないので丸暗記も可能でしょうが、証明から理解しておいたほうがミスしませんね。
      私の本ではすべて証明しているので是非読んでください。集中すれば一週間で終わるでしょう。3日で終わったという猛者もいます。

      • 丸暗記で覚え間違えない自信があれば丸暗記で問題ないということでしょうか?

        先生の本は一応既に一周しています!
        とても分かりやすくどんどん進められました。

  2. 指導要領の範囲外の内容でも定義を書けば出題は可なのかどうかは引っかかるところですね。大学入試センターはどう考えているのかが気になります。とはいえ,2018年のセンターでは本試・追試ともにもとの出題に戻ったので一安心しました。

    • yu-clidさん、こんにちは。

      大学入試センターも文科省も共通テストに向けての作業にとんでもなく追われているので、特に深く考えて出題したわけではないと思うよ・・・と某省関係者が話してました。
      現在の統計の目的は「統計をもっと学ぼう」のはずなので、穏やかな出題を続けて欲しいです。

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