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きみは「ロピタルの定理」を本当に知っているか

はじめに

受験生や予備校関係者に誤解が多い「ロピタルの定理」について解説する。
私の考えは次の通りだ。

  • ロピタルの定理は知っていても入試では実質的に役に立たない。
  • 生半可に知っているとかえって害になる可能性があるので積極的に教えるつもりはない。
  • それでも知りたいのなら教えるよ。

「ロピタル」は入試で得にならない

「入試で『ロピタルの定理』を使ってよいですか?」
と言う質問を時々受ける。

私は次のように答える。

  1. ロピタルで簡単になる入試問題はほとんどない。数学の教官の立場で考えてみれば「ロピタルを知っているかどうかで極端に作業量が変わる問題は出したくない」と思うに決まっているでしょ。「君がロピタルに気づいて数学者が気づかない」は1000000000%あり得ないよ。
  2. だから,ロピタルで楽になる問題は私大入試の小問集合(簡単な問題で答だけ書けばよいタイプ)でたまに見かける程度。国公立の2次試験では使って得する機会が極めて少ない。
  3. 以上から「使ってもいいですか?」と言う質問自体がナンセンス。
  4. どうしても使わないと求められないと言うときは,減点覚悟で使いなさい。白紙答案を出すよりマシ。

以前東大の問題で\(\displaystyle \lim_{x\to \infty}\frac{x^2}{e^x}=0\)が解くのに必要なのに,問題文に「これを使ってもよい」とのただし書きがないことがあった。ノーヒントで証明するのは東大受験者でも大変だからロピタルで示すしかないな,生徒にロピタルを教えるべきだな・・・と思っていたら,後日非公式な情報で「その程度は明らかにしてよいらしいよ」と知らされた。だから,ロピタルで得することはやはり無いと思う。

そもそも「ロピタル」を正確に知らない受験関係者が多い

「ロピタルの定理」とは次の命題Aだと思っている受験生や予備校講師が多いと思う。


【命題A】
\(f(x)\)と\(g(x)\)は微分可能とし
\(\displaystyle \lim_{x\to a}f(x)=
\lim_{x\to a}g(x)=0
\)
とするとき(\(a\)は定数)
\(\displaystyle \lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=
\lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)}
\)


しかし,これは「ロピタルの定理」ではない。それどころか,そもそも成り立たない命題なのだ。
【命題Aの反例】
\(\displaystyle f(x)=x^2\sin \frac1x,\quad g(x)=x,\quad a=0\)とする。
\(f(x)\)と\(g(x)\)は微分可能であり,
\(\displaystyle \lim_{x\to 0}f(x)=\lim_{x\to 0}g(x)=0\)
を満たす。
(注.\(-x^2 \leq f(x) \leq x^2\)となり,\(x\to 0\)とすると左辺も右辺も0に収束するので,はさみうちの原理から\(\displaystyle \lim_{x\to 0}f(x)=0\)と分かる。)

\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}x\sin
\frac1x=0\)
となる。
(注.\(\displaystyle -|x| \leq x\sin \frac1x \leq |x|\)となり,\(x\to 0\)とすると左辺も右辺も0に収束するので,はさみうちの原理から\(\displaystyle \lim_{x\to 0}x\sin \frac1x =0\)と分かる。)
しかし
\(\displaystyle \lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}=\lim_{x\to
0}\frac{2x\sin \frac1x-\cos \frac1x}{1}\)
となり,これは発散する。
(注.\(\displaystyle \lim_{x\to 0}x\sin \frac1x =0\)であるが,\(\displaystyle \lim_{x\to 0}\cos \frac1x\)が発散してしまう。)

よって
\(\displaystyle \lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}\neq \lim_{x\to
0}\frac{f'(x)}{g'(x)}\)
となる。


上記の「ロピタルの定理ではない偽の命題」のどこを修正すれば「ロピタルの定理」になるのか,それが分からなければロピタルを入試で使うべきではないよ。

某有名参考書の1990年頃の版のコピー

命題Aを「ロピタル」と誤って紹介する参考書・問題集は多い。例えば次に見せるのは、高校で採用されることも多い某有名参考書の1990年頃の版のコピーだ。実は数研の赤チャート。当時はチャートシリーズで一番難しいのは「赤」だった
ss 2016-07-22 10.42.28
ここにある(A)がまさに命題Aだ。当然間違っている。
さらに(B)も間違っている。
【(B)の反例】
\(\displaystyle f(x)=\frac1 x +\sin \frac{1}{x}\),\(\displaystyle g(x)=\frac1{x}\)、\(a=0\)
とする。
\begin{align*}
|f(x)| &=\Big| \frac1 x +\sin \frac{1}{x} \Big|\\
&\geq \Big| \frac1 x \Big| – \Big| \sin \frac{1}{x} \Big|\\
&\geq \Big| \frac1 x \Big| -1\\
& \longrightarrow \infty \quad (x\to 0)
\end{align*}
より
\(\displaystyle \lim_{x\to 0}|f(x)|=\infty\)

また
\(\displaystyle \lim_{x\to 0}|g(x)|=\lim_{x\to 0}\Big|\frac1x\Big|=\infty\)

\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}\left(1+x\sin\frac{1}{x}\right)=1\)
である。

しかし
\begin{align*}
\lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}
&=\lim_{x\to 0}\frac{-\frac1{x^2}+\cos \frac1x \times
\left(-\frac1{x^2}\right)}{-\frac1{x^2}}\\
&=\lim_{x\to 0}\Big(1+\underbrace{\cos \frac1x}_{発散}\Big)
\end{align*}
となり,これは発散する。

つまり,
\(\displaystyle\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}\ne \lim_{x\to 0}\frac{f'(x)}{g'(x)}\)
となる。


あんな有名な参考書でも間違いを載せていたのだ。(注.現在は修正され,正しく書かれている。)
未だに間違ったままを書いている参考書や問題集があるのは仕方ないかも知れないが,嘆かわしいことだ。
ただ,上記の「(B)の証明」と称するもの((A)の次の行から(B)の直前までの部分)をよく見ると「ここが怪しい」と言う部分に気づくはずだ。気づかなければロピタルを使うのはやめた方が良いと思う。

ロピタルの定理とはどういうものか

ロピタルの定理がどうしても知りたいと言う人は,以前某雑誌に私が書いた原稿があるので読んで下さい。

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