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メネラウスを参考書では如何に教えているか

はじめに

メネラウスの定理を参考書・問題集がどう教えているかについてまとめ,その問題点とオレが思う解決策について述べることにする。
問題点というのは2つだ。

  1. メネラウスが使えるかどうかを判断する基準を教えている参考書・問題集がほとんどない。明確に教えているものは,オレが書店で見た範囲で2冊だけだ。
  2. メネラウスが使えるという場合に,図がどんな向きに描かれていても初心者が確実につ買えるような教え方をしているか。多くの参考書・問題集が「典型的な分かりやすい図」の場合にしか使えない教え方にとどまっている。

問題点1について

まず,メネラウスの定理とはどういうものかの確認。
【メネラウスの定理】
三角形ABCの3辺AB,BC,CAまたはその延長が,頂点を通らない直線\(l\)とそれぞれ点P,Q,Rで交わるとき
ss 2016-07-18 11.40.05
\(
\begin{equation*}
\frac{\mbox{AP}}{\mbox{PB}}\cdot
\frac{\mbox{BQ}}{\mbox{QC}}\cdot
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RA}}=1
\end{equation*}
\)
が成り立つ。


(この定理はベクトルでも非常に役立つという話は以前にも書いた。)

本屋の参考書売り場には各社から

  • カリスマ講師が書いた
  • 世界一分かりやすい

という数学の参考書・問題集が色々並んでいる。こんなにカリスマ講師がたくさんいるなら,日本の数学教育も安心だな・・・と全然思えない。だって,その教え方にオレは全然納得いかないのだ。
東大生が教えるビジュアル数学」というサイトにある次の意見にオレは全面的に賛成する。

メネラウスの定理を用いた解法というのは、一番難しいのはメネラウスの定理を使うことに気が付くことです。
これに気が付けば殆ど勝ちです。

その通りだ。そもそも自分が今解いている問題で「メネラウスが使えるかどうか」が分からなければいけないのだ。しかも,しばしばそこが一番難しいのだ。

例えば,以前の記事でも紹介した山形大の問題を再掲する。
【2010年山形大】
一辺の長さが2の正三角形ABCがある。辺ABの中点をP,線分PBの中点をQ,辺BCを2:1に内分する点をR,線分PRと線分CQの交点をSとする。さらに,\(\overrightarrow{\mbox{AB}}=\overrightarrow{b}\),\(\overrightarrow{\mbox{AC}}=\overrightarrow{c}\)とおく。このとき,次の問いに答えよ。
(1) (2)略
(3) \(\overrightarrow{\mbox{AS}}\)を\(\overrightarrow{b}\),\(\overrightarrow{c}\)を用いて表せ。


この問題を解くためには次のような図を描くだろう。
ss 2016-07-18 11.49.06

(3)にメネラウスの定理が使えると,どれほどの受験生が気づくだろうか?
もちろん気づかないでも普通にベクトルの知識で解けるのだが,メネラウスを用いる方が計算が容易なのでミスしにくいのだ。

メネラウスが使えるかどうかが明らかでない状況で,どうやってメネラウスが使えるかどうかを判断できるのだろう?その考え方を教えるのは受験生を指導する上で重要だ。その判断ができなければ,メネラウスを知っていても使えないぞ。もったいない。

オレが店頭で調べたかぎり,その手法を明記しているのは2冊しかない。

一冊はオレが書いた「マーク式基礎問題集数学1A」。(^^ゞ
オレは次のように教えている。
ss 2016-07-18 11.51.52

黒田恵悟著「マーク式基礎問題集試験場であわてないセンター数学1・A」では,オレがキツネと呼ぶ図形を「メネラウスくん」と呼んで解説している。
(著者はセンター試験およびその前身である共通1次試験を第1回からすべて受験しているという日本唯一の人物(信じられない人だな(^_^;)。この問題集はその経験によるアドバイスが満載だ。受験指導に当たる教師こそ読むべき本だと思う。)

「メネラウスが使える図形をキツネと呼ぶ」というのは以前知人に教えてもらったもので,それ以来オレは気に入って使っている。高校の先生方と話すと関東では「東京タワー」,関西では「金魚」と呼ぶようだ。

いずれにせよ,多くの数学教師が「どう言う場合にメネラウスが使えるかどうか」を判断させるのに苦心しているわけだ。
にも関わらず,多くの「カリスマ講師」(皮肉)がそれをスルーしているのは,嘆かわしいことだ。

上記の山形大の問題では,次の図の青い部分の「キツネ」に注目すれば,メネラウスにより
\(\mbox{CS}:\mbox{QS}\)が求められると分かる。
ss 2016-07-18 11.54.28

\(\mbox{CS}:\mbox{QS}\)が求まれば,\(\displaystyle\overrightarrow{\mbox{AQ}}=\frac34 \overrightarrow{\mbox{AB}}\)と\(\overrightarrow{\mbox{AC}}\)を用いて
\(\overrightarrow{\mbox{AS}}\)を表すのは簡単だ。

問題点2について

メネラウスの定理が使えると気づいた後の問題は,上図の青い部分にメネラウスをどう当てはめるかだ。
カリスマたちの手法を紹介しよう。(具体的な著者名・書名は伏せる)

A方式「降りて降りて,行って戻って,登って登る」

ss 2016-07-18 11.57.10

これで

\begin{equation*}
\frac{\mbox{降りて}}{\mbox{降りて}}\cdot
\frac{\mbox{行って}}{\mbox{戻って}}\cdot
\frac{\mbox{登る}}{\mbox{登る}}=1
\end{equation*}
と考えて
\begin{equation*}
\frac{\mbox{AP}}{\mbox{PB}}\cdot
\frac{\mbox{BQ}}{\mbox{QC}}\cdot
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RA}}=1
\end{equation*}

これを山形大の問題の図(下に再掲)の青い部分に当てはめると,どうなるかな?
ss 2016-07-18 11.54.28
\begin{equation}
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RB}}\cdot
\frac{\mbox{BP}}{\mbox{PQ}}\cdot
\frac{\mbox{QS}}{\mbox{SC}}=1 \quad \cdots (1)
\end{equation}

となり
\begin{equation*}
\frac{\mbox{1}}{\mbox{2}}\cdot
\frac{\mbox{2}}{\mbox{1}}\cdot
\frac{\mbox{QS}}{\mbox{SC}}=1
\end{equation*}
よって
\begin{equation*}
\frac{\mbox{QS}}{\mbox{SC}}=1
\end{equation*}

つまり,SはCQの中点だ。\(^o^)/

この方式のメリットは「どの三角形にどの直線が交わっているか判断しなくて良い」ということ。

デメリットは,「図の向きが変わると正しく当てはめられるかどうかわからない」ということだ。例えば,今の図で\(\mbox{PS}:\mbox{SR}\)が求めたいとしたらどうだろう? (1)では無理だ。ほかの当てはめ方をする必要がある。次のようにすべきなのだが,すぐに気づくかな?
\begin{equation*}
\frac{\mbox{PQ}}{\mbox{QB}}\cdot
\frac{\mbox{BC}}{\mbox{CR}}\cdot
\frac{\mbox{RS}}{\mbox{SP}}=1 \quad \cdots (2)
\end{equation*}

となり,
\begin{equation*}
\frac{\mbox{1}}{\mbox{1}}\cdot
\frac{\mbox{3}}{\mbox{1}}\cdot
\frac{\mbox{RS}}{\mbox{SP}}=1
\end{equation*}
\begin{equation*}
\frac{\mbox{RS}}{\mbox{SP}}=\frac1 3
\end{equation*}

(2)を導くにはどうしたらいいのか,A方式は何も語っていない。これはまずいと思う。
図を回転させてPから『降りて降りて・・・』とするのを気づかせるのは,学力の低い子には難しいぞ。

そもそも,青い部分へのメネラウスには
\begin{equation*}
\frac{\mbox{CQ}}{\mbox{QS}}\cdot
\frac{\mbox{SP}}{\mbox{PR}}\cdot
\frac{\mbox{RB}}{\mbox{BC}}=1 \quad \cdots (3)
\end{equation*}
というものもある。これが必要なケースも当然あるが,A方式では導けない。

B方式「アイウエオカ」

これはA方式の同類。
ss 2016-07-18 12.03.38

\begin{equation*}
\frac{\mbox{ア}}{\mbox{イ}}\cdot
\frac{\mbox{ウ}}{\mbox{エ}}\cdot
\frac{\mbox{オ}}{\mbox{カ}}=1
\end{equation*}
と考えて
\begin{equation*}
\frac{\mbox{AP}}{\mbox{PB}}\cdot
\frac{\mbox{BQ}}{\mbox{QC}}\cdot
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RA}}=1
\end{equation*}

うーむ。これはなんだろう。(^_^;
アイウエオカの当てはめ方の説明がなくてサッパリ分からないぞ。論外だな。

さらにA方式と同じく,式(3)のtypeのメネラウスは導けない。

C方式「入って出て,入って出て,入って出る」

まず直線\(l\)に当たる部分を赤く塗る。
つまり,次の図で,三角形ABCに直線\(l=直線\mbox{PQ}\) が交わっていると考える。
ss 2016-07-18 12.06.02
点Aから始めて,赤い直線PQに「入る」と「出る」を繰り返すと考えるのだ。
\begin{equation*}
\frac{\mbox{入って}}{\mbox{出て}}\cdot
\frac{\mbox{入って}}{\mbox{出て}}\cdot
\frac{\mbox{入って}}{\mbox{出る}}=1
\end{equation*}
と考えて
\begin{equation*}
\frac{\mbox{AP}}{\mbox{PB}}\cdot
\frac{\mbox{BQ}}{\mbox{QC}}\cdot
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RA}}=1
\end{equation*}

C方式を山形大の図(再掲)の青い部分に当てはめてみよう。

三角形CBQに赤い直線PRが交わっていると考えるのだ。\(\cdots (4)\)
ss 2016-07-18 12.07.04

Cから始めて,赤い直線PRに「入って出る」を繰り返そう。
\begin{equation}
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RB}}\cdot
\frac{\mbox{BP}}{\mbox{PQ}}\cdot
\frac{\mbox{QS}}{\mbox{SC}}=1 \quad \cdots (1)
\end{equation}
となる。あとはA方式と同様だ。\(^o^)/

さて,C方式には明らかなデメリットがある。(4)はどうやって判断するのだろう?
つまり,「直線PRを赤い直線にする」というのは,どうやって判断すれば良いのだろう?

C方式はそれを何も説明していない。

例えば,同じ図で PS:SR を求めたい場合もあるが,その場合の「赤い直線」は何にすれば良いか分かるかな?(その場合は直線CQが赤い直線)

C方式にはメリットもある。A方式とB方式と違って,
\begin{equation*}
\frac{\mbox{CQ}}{\mbox{QS}}\cdot
\frac{\mbox{SP}}{\mbox{PR}}\cdot
\frac{\mbox{RB}}{\mbox{BC}}=1 \quad \cdots (3)
\end{equation*}
を導くことができる。赤い直線を直線PBにすれば良いのである。

もう一つのメリットは,A方式・B方式と違い,図の向きが変わっても使いやすいのである。

3つの方式のメリット・デメリットのまとめ

    メリット デメリット
A方式 直線\(l\)がどれか判断しなくて良い いつメネラウスが使えるかは教えてくれない。図の向きが変わると使いにくい。メネラウスの式(3)のタイプを導けない。
B方式 直線\(l\)がどれか判断しなくて良い いつメネラウスが使えるかは教えてくれない。アイウエオの付け方を説明していない。図の向きが変わると使いにくい。メネラウスの式(3)のタイプを導けない。
C方式 メネラウスの式(3)のタイプを導ける。図の向きが変わっても使いやすい。 いつメネラウスが使えるかは教えてくれない。赤い直線\(l\)がどれか判断する必要があるが,その判断の仕方を説明していない。

私の勧めるメネラウスの使い方

まずメネラウスが使えるかは,内分比・外分比を求めたい線分を含む「キツネ」があるかどうかで判断する。

メネラウスを使える場合は次のようにする。

  1. そのキツネを作る線分のうち「比を求めたい線分」を1本と,「比が分かっている線分」を2本を太く塗る。(合計3本。3本塗れなければメネラウスは使えない)
  2. 太く塗った線分のうち2本が通る点に◎,1本だけ通る点に○を付ける。◎と○が3つずつになる,(そうならなければ何か間違っている)
  3. ◎をつけた点から始めて,太線上を◎と○を交互にたどりながら比をかけ算する。つまり
    \(
    \frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}\cdot
    \frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}\cdot
    \frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}=1
    \)
    となる。

山形大の次の図の「青いキツネ」に当てはめてみよう。
ss 2016-07-18 11.54.28
\(\mbox{CS}:\mbox{SQ}\)を求める場合は,

  • 比を求めたい線分CQ
  • 比が分かっている線分CBとPBの2本

を太く塗る。

  • 太線が2本通るC,B,Qが◎
  • 太線が1本だけ通るP,S,Rが○

となり,次のようになる。
ss 2016-07-18 12.15.16
この図から
\(
\frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}\cdot
\frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}\cdot
\frac{\mbox{◎○}}{\mbox{○◎}}=1
\)
により,◎であるCから始めれば
\begin{equation}
\frac{\mbox{CR}}{\mbox{RB}}\cdot
\frac{\mbox{BP}}{\mbox{PQ}}\cdot
\frac{\mbox{QS}}{\mbox{SC}}=1 \quad \cdots (1)
\end{equation}
が導かれる。

◎であるBやQから始めてもよいし,「キツネ」がどちらを向いていてもこの方法なら適用するのが容易である。

C方式の「赤い直線」は,○が3つ並ぶ直線である。私の方法なら上のようにして,機械的に判断できる。(^^)v

【2015/02/07追記】生徒から
「((1)を導くのに)◎からではなく,○から始めてはダメですか?」
と聞かれた。そんなことを考えるんだな,と感心したが答は「Yes」だ。(^^)v
上の図の“キツネ”において○のついているRから始めて太線上をたどり
\(
\frac{\mbox{○◎}}{\mbox{◎○}}\cdot\frac{\mbox{○◎}}{\mbox{◎○}}\cdot\frac{\mbox{○◎}}{\mbox{◎○}}=1
\)
としよう。(Rではなくて,PやSから始めてもよい)
Rから,◎のついているBに向かえば
\(
\frac{\mbox{RB}}{\mbox{BP}}\cdot\frac{\mbox{PQ}}{\mbox{QS}}\cdot\frac{\mbox{SC}}{\mbox{CR}}=1
\)
これは,(1)の分子と分母を入れ替えたものだ。つまり,(1)と同値な式が導かれた。\(^o^)/ (Rから◎のCに向かっても大丈夫だ。試されよ!)
ただしこのやり方だと,「メネラウスの定理」を使っていることが採点する大学の先生に伝わりにくいから勧めないけどね。

「オマエのやり方は面倒くさい」と講師仲間に言われることが多いが(爆),数学の苦手なクラスでメネラウスを教えるとオレの場合は圧倒的にこのやり方の方が喜ばれる。手順を追えば必ずできるからだ。

自転車の補助輪のようなものだから,「わずらわしいな」と思えたときには使わなければよい。

というわけで,この方法を解説している「マーク式基礎問題集数学1A」をよろしく。(^^)v


2015/12/17追記.
ここで解説したメネラウスの使い方も含めて,ベクトルの計算を楽にする方法をkindle本として出版しました.
「ベクトル速算法: センター試験対策からモスクワ大入試まで」( 入試数学のsaiteiの技術)です.
どうぞ,お読み下さいませ.

【受験数学BLOG 2015/1/16より】

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